
レッド・ウィング社のあるミネソタ州の北東部に横たわる北米最大の鉄鉱石の産地がアイアンレンジである。19世紀後半より20世紀前半にかけて、ここで数多くの鉱山の開発が行われた。メサビ鉱山、ガンフリント鉱山などの大型鉱山が掘られ、日々鉄鉱石の採掘が行われ、五大湖に面した港、ダルースで船積みされ、ピッツバーグなどアメリカ国内の工業都市を始め、広く海外にも輸出された。
こうした鉱山での採掘労働は、非常な危険を伴う重労働である。ダイナマイトを使用した掘削、坑道の崩落や、スチームショベルなど大型重機による大掛かりな作業には事故もつきものであった。鉱夫達は当然の事ながら、少しでも身の安全を保障してくれる物を求め、ワークブーツにもそうした工夫を望んだ。いわゆるセーフティーブーツのニーズはこうして生まれたが、現在のセーフティーブーツのひとつの大きな特徴であるスティールトゥは1930年代になるまで普及するには至っていない。
そのスティール卜ゥの誕生前、少しでも足先を守るためになされた工夫がキャップドトゥと呼ばれる構造である。通常のワークブーツのつま先に、もう一枚の革をかぶせて(キャップして)縫い付け、つま先部分の革を二重にし、強化を図ったものである。
アイアンレンジブーツは、アイアンレンジの鉱山のような危険な作業現場で働いた男達が必要とし、愛用した、古典的なセーフティーブーツの構造、キャップドトゥを持つ、伝統的なスタイルのワークブーツである。
気の遠くなるような長さのアイアンレンジの坑道で掘削作業に励む坑夫達にとっても、こうした頑強なブーツは、共に働く仲間にも匹敵する心強い存在であったことだろう。